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フランソワーズ・ドルト「子どもの精神分析セミナー」試訳

2021/11/11

フランソワーズ・ドルト(Françoise Dolto, 1908-1988)はフランスの児童精神科医です。彼女は子どもの精神分析家としてフランスではお茶の間でも大変有名で人気のあった人物です(彼女の子ども達のうちのひとりが、コメディアンとして活躍しています)。トゥルソー病院での臨床や専門家向けの教育活動だけではなく、ラジオ番組で定期的に子どもに関する相談にのったり、”緑の家”と呼ばれる幼児と保護者のための施設を創設するなど、精力的に活動し、児童の精神分析や教育分野で多大な貢献をしました。彼女の出たテレビ番組を見てみると、語り口がとても明快で分かり易くかつ一種の迫力も自然に備わっていて、知的な肝っ玉母さん(?)といった風の女性に見えます。また、同時代のジャック・ラカンとも近い人物で、ラカンのセミネールでもドルトとラカンのやり取りがなされ、記録されてもいます。

 

ドルトの著作は翻訳されているものも幾つかありますが、いまだ翻訳されていないものもあります。そのうちの一つ、「子どもの精神分析セミナー」(Séminaire de psychanalyse d’enfants, éditions du Seuil, 1982)は3巻本になりますが、これは子どもの臨床に直接携わる人たちを対象としたセミナーの収録です。そこには患者である子どもとドルトが直接その場で面接をする”患者呈示”についても、彼女自身のコメント付きで収録されています。

 

ラカンは新しい精神分析の形や理論を作っただけではなく卓越した臨床家でもありましたが、ドルトもまた非常に優れた臨床家でした。この本は面接場面で臨床家が子どもとどう関わったら良いのかが具体的に分かる良書です。専門家だけでなく、悩み苦しんでいる子どもの考えていることを知りたい人にお勧めです。

 

本の一部の試訳を、PDFファイルにして載せます(試訳であることをご承知の上、ご利用下さい)。もし何らかの問題がある場合は、お知らせください。

 

子どもの精神分析セミナー フランソワーズ・ドルト (タイトルは仮につけたものです)

第一回 子どもと真実

https://www.cocoro-mori.net/wp/wp-content/uploads/2021/11/49ef72b19c9b2addea8db508ca9b00b7-2.pdf

第二回 親の症状としての子ども

https://www.cocoro-mori.net/wp/wp-content/uploads/2021/11/20cfce153c6dcbd30dc35695758066ae.pdf

第三回 様々な去勢 いかなる去勢も受けてこなかったカティアの症例

https://www.cocoro-mori.net/wp/wp-content/uploads/2021/11/041c8e89b678b46731ac2144bc87c2e7.pdf

第四回 様々な去勢2 恐怖症など

https://www.cocoro-mori.net/wp/wp-content/uploads/2021/11/3d286c066077720590e492e614c9bbcc.pdf

第5回 自分で創作した言語しか話さないディディエの症例

https://www.cocoro-mori.net/wp/wp-content/uploads/2021/11/588f5dc5c85286438783f2302a488dbe.pdf

 

 

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切迫する不安 ピエールの症例

パニック発作に悩む35歳ピエールの症例です。これはフランス人女性精神分析家であるエレーヌ・ボノーHélène Bonnaudの書いた「言葉にとらわれた身体」le corps pris au motという本(Navarin Editeur)に紹介されています。

 

この症例は7回という精神分析的な面接としては少ない面接回数で、治療効果があったと考えられるものです。

 

ピエールは35歳で、2年ほどパニック発作に悩んでいました。発作が始まったのはある友人が自殺した後のことでした。この友人は前途有望で、哲学の博士論文の口頭審査を終えて結婚したばかりのところであり、妻は妊娠をしていました。ピエールや周囲の人間は、なぜこの友人が飛び降り自殺を図ったのか、理由がまったく分かりませんでした。そして困惑と漠然とした不安に捉われていました。

 

ピエールは精神分析家たちの団体が運営する相談施設を訪れます。すぐに話がしたいという切迫した様子だったため、多くの場合予約の手続きが必要であるにもかかわらず、この女性分析家は緊急に彼を面接に受け入れることにしました。

 

初回、彼は不安を訴え、前述したように前途有望で幸せの絶頂にいると思っていた友人が自殺を図ってしまったことを語ります。しかし本当の問題はその先に起こったのでした。友人の死を知りショックを受けた後、ある共通の友達に「君に同じこと(自殺)が起こるなんてことは、あってはならないよ」と声をかけられたのですが、まさにこう言われたせいで、ピエールは自分が自殺をするのではないかと動揺し、一層の不安に陥ってしまったのだということです。

 

ピエールにこの言葉をかけた友達の意図は分かりません。自殺の伝染する性質のようなものを心配してそう言ったのかも知れませんしそうでないのかも知れませんが、とにかくこのフレーズがピエールの胸に刻み込まれてしまい、不安を生むものになってしまったのでした。

 

そして初回彼に会った分析家には、ピエールは不安発作のことよりもむしろ自身が自殺という行為をしてしまうのではないかと、切迫した様子で訴えていると感じられました。彼女は分析と並行して精神科をもつ医療機関で薬を処方してもらうことを提案しましたが、ピエールはそれは拒絶して分析家との次の面接の約束をしました。分析家はもしその約束の日より前に発作が出た時には連絡をするようにと言って、初回を終えました。

 

人生の見直し

 

三回目の面接で、ピエールにとってこの分析家との面接が、彼のそれまでなじんできたコミュニケーションの取り方と非常に異なるものだということが分析家に分かります。ピエールはカトリックの熱心な活動家でした。彼は自身の属するグループが催す「人生の見直し(修養会)」という会合に定期的に参加しているのですが、そこでは参加者が順々に、自分の人生の中で問題となった個人的な事柄について、皆の前で語る習わしでした。語ったり人の語りを聞く時間が終わるとつづいて福音書を読む時間が設けられ、人生上の難問を福音書に照らし合わせて解き明かしたり、各自内省する・・という時間が設けられました。それまでピエールはこの内省の時間を非常に大事にしていたのですが、分析家との面接が始まるとこの集まりに出なくなりました。分析の時間が、言わば修養会での内省の時間に取って代わったようでした。とは言え、ピエールにとって信仰は揺るぎのないもので、そのグループとの絆も疑いの余地がないものでした。

 

この分析的な面接は8か月の間に7回行われました。パニック発作は消え、ピエールは自信を回復し、仕事や女性との関係におけるいくつかの問題を解決することができました。一般的な分析的な面接からすると、頻度も回数も少ない例外的なものと思われますが、要所を的確に押さえた良い面接だったのだろうと思います。

以下、その7回の面接について説明します。                   ()に続く

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発達障害について

発達障害について

発達障害は精神医学のマニュアル(DSM-V)の中で、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、局限性学習症、チック症、吃音を含む幅の広い概念として定義されています。脳の機能が原因と考えられており、一般的には小児期までにそれらの症状を示しているものを指すことが多いようです。日常生活や社会的な場面でそれらが見られ、本人の生きづらさにつながることが多いと考えられています。そのうちの三つを取り上げます。

自閉スペクトラム症では、人と交流するよりも一人でいることを好む、コミュニケーション面でことばの裏を読んだりニュアンスを理解するのが難しい、視線が合わない、特定のものへの興味・こだわりが強い、予定が変わるとパニックに陥ってしまい臨機応変に対応できない、などが主な症状です。

※ 自閉スペクトラム症は、以前のマニュアル(DSM-IV)で自閉性障害、アスペルガー障害、または特定不能の広汎性発達障害と診断されていたものを含むカテゴリーです。非常に広い範囲に渡る症状をカバーする病名のため、上にあげた症状は一例に過ぎません。

注意欠如・多動症では、集中力を持続させて課題などをやり遂げることができない、整理整頓ができない、スケジュールを立てたり守ることが苦手、外的な刺激によってすぐに気が散ってしまう、そわそわして手足を動かしたり座っているべき時に離席してしまう、順番を待てない、人の話を遮って話し出してしまう、などが主な症状です。

局限性学習障害では知的な能力が一定の水準あると認められるにもかかわらず、読み・書き・計算などが苦手である場合を指します。読むのに時間がかかる、読んでいるものの意味を理解できない、綴りに問題がある、計算することや計算式を立てることなどが苦手、などが主な症状です。

 

主な治療法

医学的なアプローチと心理的アプローチがあります。医学的アプローチとしては向精神薬になります。心理的アプローチには療育や、心理療法があります。

 

当相談室でできること ①

当相談室では、お子様に関するさまざま相談を受け付けています。お子様自身と、もしくは保護者の方と面接することが可能です。

お子様の発達障害に関する相談では、まず保護者の方のお話を伺います。日頃お子様が家庭や学校でどのようなことに困っているのかや気になっていること等を教えて下さい。そのうえで保護者の方のご要望があれば知能検査を実施いたします。現在知能検査は、医療機関で発達障害かどうかの診断がされる際に、実施され考慮に入れられることが非常に多い検査です(※)。

 ※ 当相談室で知能検査を実施しても、お子様が発達障害かどうかの診断を下すことはできません。発達障害の診断が必要な場合は、(児童)精神科等をもつ病院やクリニックを訪れて下さい。

 

知能検査はその人がもつすべての能力をはかるわけではなく、またその検査時点で持っていると考えられるいくつかの能力の高さ低さを、はかるものでしかありません。また検査自体に時間がかかるためお子様の負担になり、今後検査やそれに似た場面への苦手意識を強めることになる等の可能性もあります。そのような理由で、やみくもに検査の実施をお勧めするわけではありません。

 

しかし検査の実施には一定の利点があるとも考えられます。それは特に学校や職場などの教育的・社会的場面において、個別の対応・指導や合理的な配慮を求めやすくなることです。知能検査は多くの人に実施した結果に基づいて標準化され作成されています。そのために同年齢の人と比べてお子様がどこの位置にいるのかということや、お子様自身のなかで得意と考えられる能力と苦手と考えられる能力について、一定の考えを得ることが出来ます。結果がはっきりと数値化されて出てくるために考慮されやすく、学校等で個別の支援計画など様々な支援が受けやすくなると考えられます。

 

当相談室では田中ビネ-V知能検査とWisc-IV知能検査を実施しています。お子様の状態や検査の目的に合わせてどちらかの検査を実施し、その結果からどういう配慮や対応をするのがよいと考えられるかを面接の中でお伝えします。

 

当相談室でできること ②

発達障害自体は脳の生まれつきの機能が原因と考えられています。しかし発達障害であることが一因となって、人との関わりにおいて自信を失いうつ状態になってしまったり、不安を強く感じて強迫的な行動を繰り返してしまうなど、ほかの様々な症状を伴ってしまい、問題が複雑になっている場合があります(二次障害)。

また精神医学的に発達障害という診断が下されている場合であっても、お子様の心理的な葛藤その他、無意識的なものによって、発達障害と思われるような症状が出ている場合があります。

どちらの場合も、保護者の方やお子様の話をよく聞いていくことを中心とする心理療法をすることで、複雑になっている問題が整理され、心理的なものからくる症状の原因が分かりその症状が消失したり、和らぐことがあります。

 

当相談室ではできないこと

・発達障害をはじめ、精神医学的な診断を下すことはできません。また、医療機関ではないため保険適用もできません。

・療育やソーシャルスキル・トレーニング(SST)は実施しておりません(お子様との面接ではお話を聞く以外にも絵を描いてもらうこと等はします)。

 

 

 

 

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