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その他(訳書など)

ユフォルカ(症例検討会)について

2025年6月21日(土)パリのミュテュアリテ会館にて、ラカン派精神分析家たちによる大きな症例検討会が開催されます。ユフォルカ(UFORCA)大会と言って、これは分析的臨床研修のためのユニオン(Union pour la Formation en Clinique Analytique)を略したものです。1997年からフランスのパリや地方都市で続く、比較的歴史のあるものです。

 

この大会について今年度の責任者であるベルギーの分析家ギル・キャローズ氏がインタビューに答えています。それによると、この症例検討会の特徴はそのスピリットにあり、それは『ラボラトリー(実験室)での研究』の時間である、とのこと。たしかに実際の大会がどのように行われるのかを見てみると、それが分かるかもしれません。症例検討会は臨床に携わる全ての人々にとってなじみのあるものですが、このラカン派の大会のやり方は他にはない特徴があるかと思います。

 

まず症例のテキストは、大会2週間前くらいに参加者に送られます。参加者は事前にどういう人が分析を求めてきた症例なのか、分析家はどのように関わったのかを読んで、自分なりの意見をまとめてみるなどの準備をすることができます。これは特にフランス語圏以外からの参加者にはありがたいことです。この大会はフランス語で行われるため、テキストが事前に手に入らない、または当日も配布されない場合は、フランス語圏の方以外の参加者にとってはついていくのがなかなか難しくなってしまうからです。

 

今日では800名もの分析家とその卵たちが世界各地から集まるので、これはかなり規模の大きなタイプの症例検討会と言えるでしょう。その会場の中心は、少し高く設置された檀上になっていて、そこに大きめのテーブルがいくつか、円形かもしくは四角になるよう置かれています。およそ12人の精神分析家たちがその席につくようになっており、精神分析家のジャック=アラン・ミレール氏がその中心にいます。開場9時、午前の部は朝10時から13時まで行われます。昼の休憩2時間をはさみ、午後は15時から18時まで。6つの症例をひとつ1時間をかけて、細部に渡ってみなで討論します。もっと言うと、テキストは事前に読み込んでくることが前提となっているので、当日は最初に症例のまとめが発表されますが、これは実際にその症例をもつ分析家(たとえばAさんとします)ではない、べつの分析家(Bさん)がまとめてきたものが発表されます。ですのでこの時点で一度、Aさんの症例がBさんによって解釈されるとも言えます。そのあとは檀上の分析家たちによる討論となり、もし時間が残れば一般の参加者もマイクのある場所に移動して質問することができます。そしてひとつの症例について終わりの時間がくると、すぐにつぎの症例のまとめの発表と討論に入ります。それが6つ続きます。

 

一日がかりでこのように6つの症例の検討がなされるのは、とても刺激的で勉強になるところが多いです。またたとえばアンティーブで開催されたときは「普通精神病あるいはふつうの精神病 psychose ordinaire」という新しい臨床的区分にかんするコンセプトが生まれたり、評判がよかった大会の場合はのちに症例と議論の内容が出版されることもあります(『精神分析の迅速な治療効果』や『底意地の悪い<他者>』などがあります)。なにかすでに知っていることや既成の理論をあてはめて満足するのではなく、つねに新しい、今この時を生きる主体に分析家は関わっているのだから、主体についての新しいコンセプトが生まれるのは当たり前にあり得るという考えで、行われていると思います。そういう点がおそらくこの大会に見られる特異でかけがえのないスピリット、『ラボラトリーでの研究』の時間である、ということなのでしょう。

ユフォルカ2025年大会

ユフォルカ(症例検討会)

 

6つの症例はあらかじめ選抜された症例ですが、そこには毎年ちがったテーマがあり、そのテーマに沿っている症例が集められています。大会が近づくにつれて、ユフォルカのホームページに大会責任者による趣旨文が発表されたり、テーマにかんする参考文献の膨大なリストが掲載されて各自それを用いて予習をしたりします。また、この大会のための事前の勉強会のようなものも、フランスのみならず参加者の故郷の各地で開催されたり、メーリングリストでは大会のテーマにちなんだ論文やエッセイなどが投稿されたものがまわってきます。そして直前には開催される駅で昼食をとるのにふさわしいレストランのリストなどもまわってきます。比較的小さな駅の町に800人が押し寄せるので、食べそこねないようにあらかじめ予約をしたほうがいいですよ、ということなのでしょう。

 

ちなみに2025年の大会テーマは「美の諸問題」です。美にかんする問題に苦しんでいると考えられる主体の話を、参加者は聞いて勉強することになります。

 

 

 

その他(訳書など)

「言葉にとらわれた身体」(誠信書房)について

エレーヌ・ボノー氏による『言葉にとらわれた身体ー現代ラカン派精神分析事例集』(Le Corps pris au mot, 2015, Navarin éditeur)の共訳書(福田大輔監訳、阿部又一郎・森綾子訳)が、誠信書房より出版されました。

この本はフランスのラカン派女性精神分析家が臨床で出会った人々の症例が20ほど、報告されています。精神医学的な診断で言えば、うつ病や心気症、摂食障害やパニック障害、PTSDや線維筋痛症など

の他、妊娠や性的なトラウマ、共依存、暴力など、かなりバラエティーに富んだ問題が扱われている内容になっています。

ラカン派精神分析の理論と実践がどのようにつながっているのかを理解することができ、またフランスにおいて現代を生きる人たちが、どんなことで分析を求めてやってくるのか、分析によってなにを見つけることが出来るのか(出来ないのか)を知るのにも、とてもよい本だと思います。

 

 

その他(訳書など)

『底意地の悪い<他者>-迫害の現象学』(水声社)について

ジャック=アラン・ミレール監修、『底意地の悪い<他者>ー迫害の現象学』(Autre méchant, 2010, Navarin éditeur )の共訳書(森綾子・伊藤啓輔訳)が水声社より出版されました。

この本はフランスを中心とするラカン派精神分析家団体(AMP:世界精神分析協会)が主催した大き

な症例検討会のひとつ(2009年のもの)を、書き起こしたものです。パラノイア的な妄想傾向の強い人に対し、分析家たちがどのように取り組んでいるのか、約6つの症例が提示され、詳しく検討されています。

ラカン派の精神分析の実践、特に統合失調症へのアプローチに興味がある方などに、お勧めの本です。

 

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