PTSD 鬱病 発達などの悩みご相談下さい。ラカン派臨床心理士によるカウンセリング

フランス人の方へ
護国寺こころの森相談室
フランス人の方へ
  • お問い合わせ・ご予約:03-69020262
  • お問い合わせ・ご予約はこちら

icon

image
ホーム > moricocoro_gohanの記事
その他(訳書など)

『精神分析の迅速な治療効果』について(2)

題名が「精神分析の迅速な治療効果」とあるとおり、どの症例も短期間で治療効果があったと考えられるものが紹介されています。そのひとつひとつの内容を、簡単に紹介します。

精神分析の迅速な治療効果

 

第一章 症例ミンナ―テロに遭遇してトラウマを負った30代女性

仕事に行く途中たまたまテロに遭遇してしまった女性で、その後悪夢にうなされています。
トラウマに苦しむミンナの悪夢に繰り返しあらわれるのは、事件内容そのもの(たとえば爆弾や犯人像)ではありません。むしろこの不幸な出会いが生んだ、この女性に特有のものです。
またテロのような衝撃的な出来事に遭遇したとき、ある人にはそれがトラウマとなりその後症状に苦しみますが、ある人にはトラウマにならず症状も何もでない、そのことをどう捉えたらよいのかについて、説明の試みがなされています。
それからこの症例にはとくにたくさんの夢と、それにまつわる連想が報告されています。そして分析家による解釈も提示されています。

 

※ ミンナの症例についての詳しい解説を試みました。それはこちらになります。

 

 

精神分析の迅速な治療効果

フランス語版

 

第二章 症例マルタ―夫の暴言に悩み離婚を望む30代女性

今までの自分から変わろうと決心した、三人の子どもを持つお母さんの話です。マルタの感じている「不安」というものが持っている大事な側面や、彼女が着てきたTシャツに書かれたことばが意味することなどが説明されています。

 

第三章 症例アンドレア―十年前に離婚した40代女性

離婚して10年たち、新たな恋愛をはじめている女性です。彼女は異性との関係の持ち方について、分析することができたようです。そのほか、「同一化」についての説明などがあります。

精神分析の迅速な治療効果

スペイン語版

 

第四章 症例ペドロ―愛と欲望のあいだで女性を選べない30代男性

二人の女性のあいだで態度を決められない、優柔不断な男性で、強い不安をもってやって来ました。分析家のところで女性問題を解決した後、局所性ジストニアにかかり苦しみますが、これも迅速に解決したと報告されています。
この章では、たとえばなぜ精神分析にとって自由連想法がたいせつなものなのかなどの説明がなされています。
守秘義務への配慮のためか、この本のなかで一番、秘められたままになっている箇所が多い、症例報告であるように感じました。

 

第五章 症例ペペ―大便を失禁する4歳男児

友だちと遊べない、言語の発達の遅れ、トイレの便器を使えないなどの問題がある男の子です。面接室における、一見理解しがたいペペの振る舞い、遊びを、分析家がどのように解釈し、介入したのかが説明されています。ぺぺがこの世界とうまくやっていくために自分で編み出した工夫・遊びも、取り上げられています。

 

第六章 症例アロンソ―病的嫉妬で浮気の証拠を探し求める30代男性

恋人が浮気をしているのではないかという嫉妬妄想に苦しむ男性です。彼が激しい嫉妬心をもつのはなぜなのか、どのように理想の女性を作り上げようとするのか、また、どのように自分の症状と折り合いをつけて現実に適応できるかなどが、説明されています。彼が報告する長い夢についても討論され、その解釈が提示されています。

その他(訳書など)

『精神分析の迅速な治療効果』について(1)

訳書、ジャック=アラン・ミレール監修『精神分析の迅速な治療効果』が出版されます。護国寺こころの森

この本はシャン・フロイディアン(ラカン派)の精神分析家たちによる症例検討会のライブ記録です。症例が6つ紹介され、それぞれの症例をめぐって、分析家たちが質問や意見を出し合って理解していく様子が、そのまま収録されています。

専門家たちが完全に専門家向けに行っている検討会ですので、すこし難しい面もあるかも知れません。訳注をつけましたが、ラカン特有の用語を理解するためには、より詳しい解説や勉強が必要だと思います。また、当時のフランスの精神分析を取り巻く状況を知らないと、議論が見えないところもあります(訳者あとがきに少し説明しました)。

しかしそうは言っても、取り上げられる症例のひとつひとつが、まずとても興味深いと思います。テロ被害者の女性、離婚して新しい人生に向かおうとしている女性、大便を失禁してしまう男の子、嫉妬に苦しむ男性・・など。読み手にとり共感できるところも多いのではないかと思います。

そしてそれに続く討論も自由活発で面白く、繰り返し読みながら精神分析や分析家たちが考えることについて、いろいろ学ぶことができると思います。

またとくに、夢がたくさん取り上げられていることが、この検討会のひとつの特徴かと思います。精神分析では夢は無意識が生み出すものと捉え、そこに夢を見ている人の願望や気持ちなどが(ストレートな形ではなくても)表現されていることが多いので、とても大切なものと考えられています。夢の解釈はじっさいは簡単でないことも多いですが、本書で提示される解釈は、とても説得力があるものだと、私は感じました。

次のページでは、6つの症例と討論を、ごく簡単に紹介します。

その他(訳書など)

症例 「鳩男」

雑誌Mental33号

前のコラムに書きましたが、ヨーロッパ精神分析連盟主催のPIPOL7では、初日に多くの症例発表が行われました。「犠牲者」という大会のテーマに何らかの形で関連がある症例の検討が行われました。

その中で私の印象にとくに残った症例が「鳩男」と言うものです。

このタイトル「鳩男」というのは、日本語で言うと「鴨男」というほどの意味です。日本語で「~のいい鴨になる」(~の都合良く利用される)という表現がありますが、そう言いたいときに、フランス語では「鴨」のところが「鳩」になるのですね。これは面白いと思います。

内容をごく簡単に紹介することにします。(以下、ラカン派精神分析の用語がいろいろ出てきますが、それらに関してはまた機会を改めて説明したいと思います。)

この発表で扱われていた主体は、ラカン派精神分析の分類で言えば、精神病の主体です。この男性はある犯罪を犯した後に精神分析家と出会い、面談をつづけ、自分の享楽を名付けることに成功し、自分の人生に責任を負う主体として生きることが可能となった人物として報告されています。精神分析的な面談によって主体の変化が起こり、人生が良い方向へ変化した一つの成功例として、提示されています。

ただ彼は自分の罪状を最初から最後まで(分析家との面談が進んでも)否認しており、事件の加害者である自分のことを「被害者」であると見なしている人物でもあります。このような主体にたいしてどういった姿勢で臨むことが可能なのか、精神分析家が出来ることと出来ないこととが、説明されているとも思います。

発表者のジョナサン・ルロイ(Jonathan Leroy)氏はベルギーの司法関連機関で働く精神分析家で、ブログも運営しています。3ページ程度の短い論文ですが、主体が大他者の享楽の対象になるという経験についてや、症状からサントームを作り出すということの一例が、手際よく提示されていると思います。発表論文はその後雑誌Mentalの33号に収録されました。

※この論文の詳細をお知りになりたい方は、ルロイ氏論文の試訳がありますので、相談室宛てにメールでお問い合わせください(ルロイ氏の承諾を頂いています)。

ページトップ